ナバナ(アブラナ科アブラナ属)
土壌医●藤巻久志
ナバナ(菜花)はナタネのつぼみ、花茎、若葉を利用する作物で、独特のほろ苦さと香りがあります。春の訪れを連想させる野菜で、早いものは10月から出荷されます。ゆでておひたしやあえ物にします。炒め物や煮物などにもできます。
ナタネには和種と洋種があります。和種は江戸時代まで油を搾るために栽培されていた在来種です。洋種は明治時代初期に導入され、含油率が高いので搾油用として全国に普及しました。
菜の花畑は日本の原風景といわれています。与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の「菜の花」は江戸時代だから和種です。小学唱歌の『朧(おぼろ)月夜』の「菜の花畠(ばたけ)」は、大正時代に初出ですから、洋種かもしれません。現在のナタネの栽培は、カナダや米国から食用油原料が輸入されるようになり、搾油用はほとんどなくなりました。
農作物は食用作物、飼料作物、緑肥作物、園芸作物、工芸作物に大きく分けられます。搾油用のナタネは工芸作物の油用作物に分類され、ナバナは園芸作物の野菜の葉菜類に分類されます。
和種はカブやハクサイの仲間で、種子の色は赤褐色が多く、葉は淡緑色で薄く柔らかいです。京都の在来種「伏見寒咲花菜」が有名です。種が吸水したときから低温に感応して花芽分化するシードバーナリゼーション(春化)型で、低温に敏感な品種は10月につぼみを付けます。
洋種は株が一定の大きさになってから低温に感応するグリーンプラントバーナリゼーション型なので、東京の在来種「のらぼう菜」などは2月からの収穫になります。種子の色は黒褐色です。葉は色が濃く肉厚で、白いろう質で覆われています。
ナバナは抗酸化作用の高い成分を豊富に含み、特にビタミンCの量は野菜の中でもトップクラスです。つぼみには、これから開花して種を付け、子孫を繁栄させるエネルギーがあるように感じられます。